
水野英子『星のたてごと』
昭和35年(1960年)から2年9ヵ月にわたって、
「少女クラブ」(講談社版)に連載された作品。
なので、さすがの私もリアルタイムでは読んでおりません。
私が読んで、持っているのは、朝日ソノラマから
昭和43年(1968年)に発行された単行本3冊です。
当時小学校5年生だった私は、
塾の前にあった駄菓子と貸本の店に行くのが楽しみで、
そろばん塾に通っておりました。
そこで、このマンガを見つけたのです。
夢中になりました。
どうしてもこの本が欲しいと、ねだって、取り寄せてもらったのです。
もちろん、amazonなんてありませんし、宅配便もありません。
色々面倒だったようで、親には
「なんで、マンガの本をわざわざ取り寄せてまで買うの」と言われましたが、
頑張りました!
やっと届いた時は、とても嬉しかった記憶があります。
ストーリーは、仇敵の姫君と騎士の恋愛物語なのですが、
世界の神話や伝説がごちゃまぜになったような、
愛と戦いと冒険が、華麗な絵で、怒涛のように展開していきます。
以下、ネタバレを含みます。

最初のページ 手塚治虫の『リボンの騎士』の影響がわかります。
隣国のザロモン人が国境まで攻めてきているというのに、酒盛りのばかさわぎを続けるデグルス王。ある夜、そんな宮廷にザロモン人が忍び込む。騒ぎからシャロット伯爵の一人娘リンダを救ってくれたのは、たてごとを持ち、仮面をつけた吟遊詩人であった。彼の指には黄金の指輪がはめられていたが、リンダはその指輪に見覚えがあるような気がした。
王の大競技会が開かれ、試合に勝ったのは、先日の吟遊詩人である謎の騎士。リンダのねがいでかぶとを脱いだ顔を見てリンダは「ユリウス」と叫ぶ。だがシャロットは、ユリウスに二度とリンダにかかわるなと言う。
謀反をたくらむゾルゲ公の陰謀で、シャロットは謀反人にされ、リンダにも追っ手がかかる。ユリウスはそんな二人を何度となく助けてくれる。

2巻の口絵
やがてあかされるユリウスの正体、そしてリンダとユリウスの関係は‥‥
3巻の巻頭に描かれた、それまでのあらすじ

リンダは、世界の人々の運命をつかさどる大神プレアデスのむすめでした。
ある日、戦場で死んだわかい騎士を愛し、生命のやどる指輪をあたえたために、父 大神のいかりをかい、ゆびわをとりもどすよう 地上におとされました。
伯爵シャロットのむすめとして、人間の世界にうまれかわったリンダは、ゆびわの力で地上にかえることのできた騎士にであいます。
けれど、なんとひにく、かれは敵ザロモン国の王子にうまれていたのでした。
騎士のなまえは ユリウス――。
リンダには、ユリウスからゆびわをとりもどすことはできませんでした。
それは命をうばうことなのですから――。
この大ロマン!!

ユリウスとリンダのこんなラブシーンに、どれだけ心躍らせたことか!!
まさに「更級日記」の作者にとっての「源氏物語」が、私の場合、このマンガでした。
こんなロマンチックなマンガに浸っていれば、周囲の悪ガキ少年たちに目がいかなくなるのは当然で、後から考えると、せっかくの思春期に、空想ばかりしていてモッタイナイことをしたなぁーとも思うのですけど‥‥
このマンガの魅力は、ストーリーだけではなくて、水野英子の華麗な絵も大きな要素です。
1巻の最初の頃は明らかに手塚治虫の影響がわかる絵です。

単行本第1巻の最初に「この本を、私をそだて、漫画家への道をひらいてくださった 元講談社編集部員・丸山昭氏へおくる。」と献辞があります。
第2巻にその丸山昭氏(「元『少女クラブ』編集長」という肩書きになっています)の「水野英子について」という文章がありますが、氏が手塚治虫先生の担当編集員として通っていたとき、先生に見てもらいたいと作品を送ってきたのが水野英子で、そんなきっかけから、色々と作品を描いて送ってもらうようになり、やがて「少女クラブ」執筆陣のレギュラーの座を占め、上京した水野英子が住んだのが、かの「トキワ荘」だったとのこと。
物語が進むと、女性らしい繊細で流麗な絵になっていきます。

初期の少女マンガは結構男性の作家によって描かれたものも多かったですが、
(手塚治虫をはじめ、石森章太郎、ちばてつや、横山光輝も描いていますよね)
やはり、流麗な絵の魅力ということでは、女性作家にかなわないと思いますね。
そして、少年マンガより一段低く見られていた少女マンガ界は
「24年組」と呼ばれる昭和24年前後生まれの作家が華々しく活躍する時代になるのですが、私は、
この「星のたてごと」や水野英子が大きな影響があったと考えています。
24年生まれなら、「星のたてごと」連載当時、ローティーンだったわけで、
私と同じように、この大ロマンにときめかないハズがない!
池田理代子など、出てきた時、絵が水野英子にそっくりで(特に男性がソックリ)
私は「ここまでまねっこしたらいけないでしょう」と思ってました。
水野英子の絵では、この頃の絵が私は一番好きかも。
と言うのは、第3巻の41ページから70ページまで、明らかに絵が違うからです。
あとがきにありますが、「少女クラブ」連載の時に、二ヵ月ほど目を悪くして代作してもらった部分があり、そこを書き直したとのこと。そして、作者も書いていますが、
「この仕事をしながら一番ふしぎに思ったのは、昔と同じ絵が、もう二度と描けないということでした。同じ人間が月日を重ね成長することは、また作品をもひとつの場所にとどめてはおかないのです。」

書き直し(1968年)をしたページのリンダとユリウス
「ファイヤー!」(1969年~)の絵に近いですね

連載当時(1962年頃?)のリンダとユリウス
しかし、これだけの波乱万丈の物語が、3巻の単行本に収まってしまうのは驚きです。
3巻には「ルル」という70ページの作品も収録されており、
「星のたてごと」とは全く違うオシャレなコメディーで、これはこれで、私は大好きです。
『星のたてごと』 eBookで読めます

この記事へのコメント
SPIRAL
女の子から借りリアルタイムの世代ですが、最終回も含め全ては見ていません。
天使が若い騎士の魂を抱いて天空に昇る時に一目惚れするシーンを記憶しています。
池田理代子さんの絵の様な記憶なんですが…
もし今見る事が出来たら、違うと思うかな。
余談ですが岩崎宏美の『聖母たちのララバイ』を聞く度に、『星のたてごと』を思い浮かべます。
しーちゃん
Mimi
リアルタイムで読んでいました。 私の唯一の憧れの漫画でした。
はるか昔の事ですが 小学校の時 この漫画の絵とミステリアスで
秘められたストーリーに 子供ながらはまりこんでいました。 当時はテレビもありませんでした。
絵は その後でてきた有名漫画などで描かれていたものよりずっと美しかったと思います。
今 昔のままの絵が残っている本を探してみたいです。
しーちゃん
midorinn
はじめまして、みどりんと申します。
驚きました!★
まさかと思って検索してみました星の竪琴 水野英子!
ありました!ありがとうございます。
小学生の頃貸し本屋さんで借りて、途中まで読んだ記憶があります。
(TVもなかったので)子供ながら憧れていました。
結末は後々で読んだ記憶があります。しかも、ソロバン塾で・・・
最初から通して読んだことがないのでいつも気になっていました。
ベルばらが話題になる度に、いつもこれを思い出していました。
池田理代子さんはアシスタントをしていた方ではないかと思いますが?
ウン十年ぶりに会うことができました!懐かしい!最高!
ありがとうございます。
とりあえずお礼まで。
金沢市在住 みどりん
しーちゃん
池田理代子が水野英子のアシスタントだったかどうかはわかりませんが、デビュー当時、絵がソックリでしたね。
懐かしの大好きなマンガについてのコメント、ありがとうございました。